蝉時雨



「蝉時雨」は夏の季語。
たくさんの蝉が鳴く声を
時雨の音に例えた趣のある言葉です。

先日、蝉時雨のなか
買い物に出るため道を渡ろうとした時
通り過ぎた年輩の女性がふと立ち止まり
数歩戻ってかがみこむのが見えました。

落とし物かな…と思いながら道を渡って行くと
その女性は何かを拾い横の植え込みに置くと
そのまま立ち去りました。

その時、手元は見えませんでしたが
それが何か、私にはすぐわかりました。
土に還してあげたんだ、と…。

最近コンクリートの上に転がる
蝉の死骸を見る度に昔は土の上に落ちてそのまま土へと
還ることが出来たんだろうに…と哀れに思っていたので
その女性のしたことがすぐにわかったのかもしれません。

そうか、土に還してあげればいいんだ!
そう思って歩き始めると目に飛び込んできたのは
コンクリートの上に転がる蝉の死骸。

…うっ、もう試されてる。
よく見るとその蝉にはたくさんの蟻が群がっていました。
これは蟻さんのものだから…。
そんな言い訳に内心後ろめたさを感じつつ
子供の頃は平気で掴んでいた
この小さな蝉を怖がっている自分に気がつきました。

それから何度目かの試練が訪れた時
よしっ!と心を決めて蝉の死骸に手を伸ばしてみました。
何十年ぶりかに触れた蝉はカラカラで抜け殻のようでした。
その軽さにちょっと切なくなりつつ
ちゃんと土に還りますように…と植え込みの土の上へ。

写真は久奈屋の暦葉書雲と蝉」。
…いまになってみると
もっと生命力に溢れた精一杯夏を謳歌する
蝉の姿を描けたらよかったなぁと少し反省です。

hisanaya

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